ジュール・ヴェルヌ著 安東次男訳 「ジャンガダ」
講釈師、見てきたように嘘を言い。これは、ジュール・ヴェルヌへの賛辞であろう。
「八十日間世界一周 」はもちろんのこと、「地底旅行」ではアイスランドを、「アドリア海の復讐」ではトリエステやアドリア海東部というかなりツボなエリアを、「地の果ての灯台」ではマゼラン海峡を、そして「グラント船長の子供たち」ではなんと南緯37度線にそって世界一周とジュール・ヴェルヌの魅力はありえない旅行記であることは論を待たないであろう。もちろん彼自身そこを訪れたはずもなく、あくまで資料に支えられた「空想」旅行ではあるのだが、史実や文献もちらつかせながらうまく「見てきたように嘘を言」う手口は巧妙である。とくに、19世紀にこれを読んだ人は、これらの地域に関する情報が今以上に得にくく、驚きや楽しみも大きかったであろう。
で、アマゾン川下りである。「ジャンガダ」とは筏のことである。長さ300mの巨大な筏での悠々たる川下りだ。
1部と2部にわかれているが、1部はアマゾン川下りが中心で、話の本筋は遅々として進まない。話の筋を早く追いたい者としては、イライラするのであるが、この焦燥感は、むしろヴェルヌの仕掛けた「退屈なアマゾン川下り」のリアリティなのかもしれない。
2部に入って急転直下、話はどんどんと進むが、これはむしろ今まで焦らされていたからこそ、話のテンポが心地良いのかもしれない。
主人公の無罪立証のための証拠物件が暗号化された文書であったという大変わかり易いストーリーであるが、暗号解読の結末に至るまでの伏線の妙が素晴らしく、ヴェルヌ作品のなかでもストーリーの面白さでは秀逸な作品の一つであろう。暗号文書は「地底旅行」でも出てくるが、「地底旅行」では、暗号文書はごくごく脇役であるが、「ジャンガダ」では、いきなり暗号文書から始まり暗号文書は主役となっている。
1部が若干退屈かも知れないが、2部での話の展開は素晴らしく、オススメのヴェルヌ作品である。この安東訳本は1969年に発売されたものの復刊。
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