2025年1月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

« 2015年2月 | トップページ | 2015年5月 »

2015年3月

2015/03/17

いまどきのタゴガエル

Img_0983
タゴガエル(B-2a 型)の抱接 2012.5.6 但東町相田(永井撮影)

タゴガエルをご存知だろうか。アカガエルのなかまで「クワーーコッコッコッコ」という感じで鳴くのだが、個体数は多いにもかかわらず、伏流水を生活圏としているため、なかなか姿を見せないカエルだ。

このカエル、以前から北近畿において、大小2タイプが存在し、生殖生態などに違いも見られ、その種内多様性は注目されていた[4-9]。この種内多様性が、ここに来てそろそろ決着が付きそうな感じだ。

2012年、Etoらは、全国から集めた200を超えるサンプルを用いてミトコンドリアDNA解析を行った[1]。その結果、タゴガエルは大きくA、Bの2タイプに分けられ、このA,Bを更に細分して、15のグループに分けられることを突き止めた。これらのグループの分布は図のとおりである。

Screenshot_from_20150307_123237
文献[1]から引用

近畿北部について見ると、A-1b型とB-2a型が同居し、A-1b型が小型タイプ、B-2aが大型タイプで、これは今までの知見[4-8]と一致する。このように、タゴガエルはA型とB型がうまく同居する形で生息していると考えられた。

しかし、ちょっと待て。この解析結果には腑に落ちないところがある。ひとつは、滋賀県の標本採集地点番号41で採集された個体が、近畿北部の大型タイプであるにもかかわらずA-1a型の遺伝子配列であったことである。他のすべての大型タイプはB型であったのにもかかわらず、である。(問題点1)

ふたつ目は、ナガレタゴガエルが、A-2とA-3にまたがっていることに加え、A-2にはタゴガエルも含まれ、いったいナガレタゴガエルはほんとうに種でいいのか、という状況になったということである。。(問題点2)

これら、2点の問題は大きく、まだまだ、これですべてが決着とは言えない状況であった。

P3270873
タゴガエル(A-1b 型)の卵 2004.3.27 但東町相田(永井撮影)

そこで、次にEtoらは、核DNAを調べた[2]。ミトコンドリアDNAは母系に伝わるため、必ずしも個体群の遺伝子的特徴を明確に示すとは限らない。核DNAを調べた結果が下図。

Screenshot_from_20150313_002620
文献[2]から引用

上の帯は左端がA-1で右端がB-2bとミトコンドリアDNA解析に従った順に並んでいる。核DNA解析の結果は色で示されているが、これは、同じ色が多ければ同系統くらいに受け止めてもらえばよい。赤系が緑系に分断されている。

そこで、赤系がくっつくように並び替えたのが下の帯。上の帯で赤で示されていたものをクレードI、緑をクレードIIとしている。下の帯ではさらに他の核DNA解析結果を付け加え表示している。

これを見ると、近畿の大型タイプA-1aとB-2aがクレードIに入り、大型系がクレードIに収まった。小型タイプのA-1bはクレードIIである。これで問題点1は解決。

ナガレタゴガエル(図では(Rs)と表記)は、A-2のタゴガエル(図では(Rt)と表記)とともに、クレードIIに入ったが、K=3とK=4の分析結果でほかとの違いがはっきりと出てその特異性が支持された。これで、問題点2も解決。

この図は、大変に興味深い。フツーのタゴガエルがn=26であるのに対してn=28である個体群のA-4はK=4分析で特異性を示している。また、近畿の小型種A-1bもK=3、K=4分析で特異性を示す。

A-4は2014年12月に新種Rana nebaとして記載された[3]。和名はネバタゴガエル。そういうことなら核DNA解析結果を見ると、A-1bも将来、新種または新亜種くらいになりそうな特性を持つように見える。

また、A-8(亜種ヤクシマタゴガエル)、A-9c(五島列島個体群)、B-1(亜種オキノシマタゴガエル)の3グループもK=3解析がピンク色ということで共通点が見られる。島嶼タイプということか。

この核DNAの解析結果の図はたいへん面白い上に、タゴガエルの地域個体群の構造が明確に示されたものだろう。これを踏み板にした今後の展開が非常に楽しみである。

参考文献

  1. Eto, K., M. Matsui, T. Sugahara, T. Tanaka-Ueno. 2012. Highly complex mitochondrial DNA genealogy in an endemic Japanese subterranean breeding brown frog Rana tagoi (Amphibia, Anura, Ranidae). Zoological Science, 29: 662-671.
  2. Eto, K., M. Matsui, 2014. Cytonuclear discordance and historical demography of two brown frogs, Rana tagoi and R. sakuraii (Amphibia: Ranidae). Molecular phylogenetics and evolution, 79C: 231-239.
  3. Ryuzaki M., Y. Hasegawa, M. Kuramoto, 2014. A new brown frog of the genus Rana from Japan (Anura: Ranidae) revealed by cytological and bioacoustic studies. Alytes, 31: 49-58.
  4. 菅原隆博, 1990. 京都北山におけるタゴガエルの繁殖生態. 爬虫両棲類学雑誌, 13: 145.
  5. 菅原隆博, 松井正文, 1992. 京都雲ヶ畑産タゴガエル2集団の比較ー幼生の成長と発育. 爬虫両棲類学雑誌, 14:209.
  6. 菅原隆博, 松井正文, 1993. 京都雲ケ畑産タゴガエル2型の形態計量計質の比較. 爬虫両棲類学雑誌, 15: 83.
  7. 菅原隆博, 松井正文, 1994. タゴガエル2型の識別点の検討. 爬虫両棲類学雑誌, 15: 151.
  8. 菅原隆博, 松井正文, 1995. 京都雲ヶ畑産タゴガエル2型の音声形質の比較. 爬虫両棲類学雑誌, 16: 64-65.
  9. 菅原隆博, 松井正文, 1996. 近畿周辺産タゴガエルの形態変異. 爬虫両棲類学雑誌, 16: 151-152.

« 2015年2月 | トップページ | 2015年5月 »

他のアカウント

葦浦史穂の本


最近のトラックバック

adsense